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京都地方裁判所 昭和52年(ホ)125号 決定 1977年6月30日

被審人

株式会社ニユードライバー教習所

右代表者

村上直一

右被審人代理人

猪野愈

主文

被審人を過料五〇万円に処する。

手続費用は被審人の負担とする。

理由

一一件記録によれば以下の事実を認めることができる。

(被審人の地位等)

被審人は京都府公安委員会より指定自動車教習所として指定され、肩書地において従業員約四〇名を擁して、自動車運転に関する技能等につき教習を行なうを業とするものであるが、昭和四〇年八月五日中坊浩三(以下、中坊と略称する)を、昭和四三年一月五日池宮直雄(以下、池宮と略称する)をそれぞれ採用し、技能指導員として就労させていたところ、同年一一月一四日付で当時総評全国一般労組全自動車教習所労働組合(現在は総評全国一般労組京都地方本部京都自動車教習所労働組合)執行委員であつた池宮に対し、昭和四四年一一月三〇日付で当時右組合下部組織であるニユードライバー分会の組合員であつた中坊に対し、それぞれ解雇の意思表示をなした。

(緊急命令の存在等)

総評全国一般労組全自動車教習所労働組合は、前記各解雇処分等について京都府地方労働委員会に対して不当労働行為の救済命令の申立をなしたところ(京労委昭和四四年(不)第一号第一ニユードライバー教習所不当労働行為救済申立事件、同昭和四五年(不)第三号・同第一三号の二・第二・第三ニユードライバー教習所不当労働行為救済申立併合事件)、被審人は同委員会から、昭和四五年四月一八日「一 被申立人は池宮直雄を原職に復帰させるとともに、昭和四三年一一月一五日から原職復帰に至るまでの間、同人が受けるべきはずの諸給与相当額を支払わなければならない。二 被申立人は、申立人の賃上げ等の労働条件ならびに組合掲示板設置などに関する団体交渉の申入れに対し、交渉人員、時間等につき一方的に社会通念上とうてい承服できないような条件を提示してこれを申立人が承諾しない限り団体交渉に応じないとの理由で団体交渉を拒否してはならない。」との、昭和四八年一月二六日「被申立人は、中坊浩三に対する昭和四四年一一月五日から二九日までの出勤禁止および同月三〇日付の解雇を取り消し、原職に復帰させ、昭和四四年一一月五日から原職復帰に至るまでの間に同人が受けるべきはずの諸給与相当額を支払わなければならない。」との命令をそれぞれ受けたので、中央労働委員会に対し再審査の申立をしたが、昭和五一年一月二一日右申立は棄却された。そこで東京地方裁判所に右中央労働委員会の命令取消訴訟を提起したところ、同裁判所は同委員会の申立により(昭和五一年(行ク)第四八号緊急命令申立事件)、昭和五一年一〇月一五日「被申立人に対して、原告被申立人、被告申立人間の当庁昭和五一年(行ウ)第四九号行政処分取消請求事件の判決の確定に至るまで、申立人が中労委昭和四五年(不再)第三二号、昭和四八年(不再)第一一号事件につき、昭和五一年一月二一日に被申立人の再審査申立を棄却する命令を発して維持した京都府地方労働委員会昭和四四年(不)第一号第一ニユードライバー教習所不当労働行為救済申立事件の昭和四五年四月一八日付命令並びに同委員会昭和四五年(不)第三号・同第一三号の二・第二・第三ニユードライバー教習所不当労働行為救済申立併合事件の昭和四八年一月二六日付命令(但し、右命令のうち中坊浩三に対する出勤禁止および解雇の取消を命じた部分を除く。)に従うべき旨を命ずる。」との緊急命令を発し、同命令は同月二一日被審人に送達された。

(緊急命令違反事実)

1  池宮の原職復帰

(一) 被審人は、昭和五一年一〇月二一日付で池宮に対し、「速やかに出社し勤務すること」等の通告をなしたうえ、翌二二日京都府公安委員会に対して原職復帰後の技能指導員の取扱い方について指示をあおいだところ、何らの回答も得られなかつたので、翌二三日同人を従業員として受けいれたものの、技能指導員として就労させる前に教養を施す必要があるとの名目で、同人に対して道路交通法令集一冊を交付してそれを勉強させることとした。そして同年一一月六日同公安委員会に対して同人の研鑚状況について、「当教習所としても鋭意これが教養に専念させていますが(中略)引続き具体的な教習方法、技能指導員としてのあり方、道交法の知識について教養を行ないます」旨の報告をなしたが、その実なおも同人に対して道路交通法令集の勉強を継続させたまま、その後は同公安委員会に対して何らの指示をあおぐこともなく、報告をすることもせずに日時を経過した。なおその間中坊に対しては同年一二月一日に昭和四九年度教習所職員ハンドブツクを与えて同書により研鑚する機会を与えた。

(二) 被審人は池宮に指示して昭和五二年一月二四日から同年二月三日まで技能指導員養成講習に参加する機会を与え、同月二二日に同公安委員会にレポートを提出させたうえ、同年三月一日面接を受けさせ、よつて同月一四日同公安委員会より同人に対する技能指導員審査合格の再認の通知を受けたので、翌一五日同公安委員会に対して技能指導員選任届を提出して同年四月七日より同人を技能指導員として原職に復帰せしめた。

2  池宮に対する第二次解雇以降のバツクペイ不払

被審人は、池宮に対して昭和四五年六月四日から原職復帰に至るまでの間の同人が受けるべきはずの給与相当額を未だ支払わないものである。

3  中坊および池宮に対するバツクペイの不完全履行

被審人は、昭和五二年一月二七日に至つてはじめて中坊および池宮に対し、解雇処分に付されて後原職復帰に至るまで(池宮については、前認定のとおり第二次解雇に至るまで)の諸給与相当額を支払う際、所得税法および同基本通達の趣旨に則り、所得の発生する課税年度内の給料等について、それぞれ該当する年度の所定の所得税額を算定して控除すべきであるのに、一括支給時において各年度分の給料相当合計額を所得したとして、別紙「計算書」のとおり、課税所得額を給料等合計額から一定の控除をした金額として計算し、そのまま昭和五一年四月分以降の給与所得の源泉徴収税額表に基づき、中坊に対し、給料相当額合計金九一九万一、一五六円(内訳給料六七九万八、一四三円、賞与二三九万三、〇一三円)から仮処分決定による支払分等を差し引いたうえ、所得税として合計金三四二万四、五一六円(内訳給料分金三一八万五、二一五円、賞与分二三万九、三〇一円)を過大に控除して金二二五万二、五五七円を、池宮に対し、前認定のとおり第二次解雇処分に至るまでの給料相当額合計一〇九万四、六三七円(内訳給料七六万二、八八六円、賞与三三万一、七五一円)から仮処分決定による支払分等を差し引いたうえ、所得税として合計金一二万二、七八三円(内訳給料分金八万九、六〇八円、賞与分三万三、一七五円)を過大に控除して金一七万七、九三七円をそれぞれ支払つたもので、未だ両名に対し給与相当額を完全に支払わない。

更に、被審人は、健康保険法、厚生年金保険法に則り、被保険者の負担すべき前月分の保険料に限り、同人の受けるべき報酬額から正当に控除することができるのに、池宮に対し、第二次解雇処分に至るまでの給料の一部から、社会保険料として昭和四四年六月から昭和四五年六月までの相当額計三万七、八二〇円を控除したほか、昭和四五年七月から昭和五一年一二月までの相当額計二五万六二五円を社会保険料債務分として控除したものである。

二被審人は、以下のとおり緊急命令に違反するところはないと主張するので判断する。

1  被審人は、技能指導員の特殊性に鑑みれば、同指導員としての勤務の期間が短いうえ、離職期間が長きに渡る池宮に対しては、復職の前提として同指導員としての教養を施す必要があり、そのため相当の期間同人に対して具体的な教習方法、技能指導員としてのあり方、道路交通法の知識について研鑚させたものであるから、何ら緊急命令に悖るところはないと主張する。

労働委員会の救済命令の命じるところの原職復帰は、緊急命令の発付後、当該労働者を、特段の事情のない限り、直ちに従前と同一或は同視し得る地位、資格に基づき、従前と同一或は同視し得る職場において就労させることを意味するものであるところ、右地位、資格が特殊或は高度な技術、知識を要求せられ、右技術等が年月の経過により著るしく減退する虞があるような場合には、右技術等を回復するに必要な限度において原職復帰の期間を遷延して、右技術等を回復せしめる手段としてその学習をなさしめることはやむを得ないといわなければならない。技能指導員はその資格取得について一定の消極的要件が法定され、自動車の運転者の資質向上を図るために、高度な技術と知識が要求されるものであり、それが日時の経過によりある程度減退すると思料されるところ、その所属する教習所としては、管理者としての責任上、一旦離職した同指導員に対して、過去の経験年数、離職期間に照らして相当の期間、相当の学習を課すことはやむを得ないとはいうものの、前記1(一)で認定したような、被審人が池宮に命じた学習の方法、その期間は到底右にいう必要の範囲内にあるということはできないから、結局緊急命令発付後直ちに池宮を原職に復帰させなかつたことに帰し、緊急命令に違反したものといわなければならない。

2  被審人は池宮に対し昭和四五年六月四日付で、同人がかつて被審人教習所次長片山茂に対して集団で暴力を加えて傷害を負わせたとの理由で、昭和四六年七月二一日付で同人が採用の際交通違反、業務上過失傷害その他の前科を秘匿したとの理由でそれぞれ予備的に解雇の意思表示をなしたところ、右各解雇処分については本件救済命令の審問の対象にはなく、したがつて緊急命令の対象にもならないものであり、また右各予備的解雇はいずれも正当であるから、右予備的解雇以降のバツクペイは支払う必要がないと主張する。

救済命令は、それによつて国に対する公法上の義務を課するものであつて、何ら私法上の労働関係を形成するものではなく、また緊急命令は救済命令に対する行政訴訟の提起によつて、救済命令が未だ確定に至らない場合過料の制裁をもつて応急的にその履行を強制するものであると解される。

したがって使用者が救済命令を交付されて後当該労働者について新たに解雇すべき事由を発見した場合、当初の解雇につき救済命令或は緊急命令が発せられていても、当該労働者を解雇し得る一方、解雇した場合にも、バツクペイを命ずる等の緊急命令が存在する限り、右第二次解雇の処分の効力いかんにかかわらず、したがつて当該救済命令、緊急命令がたとえ新たな処分について審査の対象としていない場合であつても、右緊急命令が取消し或は変更されない限り、その履行を義務づけられることはその性質上当然といわなければならない。

よつて被審人の右主張は採用するところではない。<中略>

四結論

前認定のとおり被審人は本件緊急命令に違反するものであるから、緊急命令違反事実欄記載の諸事情を総合考慮したうえ、労働組合法三二条により被審人を過料五〇万円に処するを相当と認め、非訟事件手続法二〇七条四項に則り主文のとおり決定する。

(野田栄一 門口正人 野崎薫子)

別紙<省略>

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